櫻の園
駅前の時計が低い鐘の音を鳴らし、八時を告げた。
月が出ていた。満月に近いその明るい光のせいで、何千何万とあるはずの星は数えるほどしか見えなかった。
洲のポケットの携帯がチカチカと光り、持ち主を呼んでいる。
ふと我に帰ったあたしは、洲の手を放して涙をぬぐった。
「…洲、ごめん…行っていいから。ライブのリハーサルあるって言ってたじゃん…」
「……桃、」
「行って」
追い払うように洲の肩を押す。
鳴り止んだ時計の鐘。
そのままグイッと腕を引かれた。
驚いて顔をあげると、目の前には真剣な洲の顔。洲は手を掴んだまま立ち上がると、あたしを引っ張って歩き出した。
驚いて思わず振りほどこうとするあたし。
強く握られたままの、右手。
「!?ちょっと洲…っ!!」
「いいから。ついてこい。」
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