櫻の園


ジリリリリ…連続したベル音で、はっと目を覚ました。


いつの間に寝てしまっていたのだろう。どれくらい眠っていたのか、寝汗で額に前髪がはりついていた。


リン、と突然ぶつ切りにされたように鳴り止んだ音。

家の中が急に、静まり返る。

…夢、か。仰向けになったまま、汗ばんだ額に手を当てる。じんわりと手のひらに、生温かい感触が広がる。


今あたしがあの頃に戻れたとしたら、違う道を選んでいるのだろうか。それとも、同じ道しか、選べないのだろうか──。



ジリリリリリ…

「───!!」

また音が始まる。まるで生まれたばかりの、赤ん坊の鳴き声のようだ。


まだぼんやりしている頭に、地響きのように電話のベル音が響き続ける。

受話器を取りにいくのでさえ億劫だったが、あまりにしつこく鳴り続けるので仕方なくベットから体を起こした。早く、早くとあたしを急かすけたたましい声。


「…もしもし?」

「…結城さん?」




バケツの中の氷水を、ひっくり返したようだった。


一気に頭の中が冷えて、冴え渡った。




「──若松、先生…」

「…久しぶりね」





電話口から流れ込んできたのは、





…もう二度と、聞くことのないと思っていた声だった。












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