櫻の園
血が巡る。閉じられていた門が一気に解き放たれたかのように、ザァ…っと、全身を駆け抜けていく。
「私が全面にバックアップするわ。いい教室だって紹介する」
体が震えた。まともに立っていられそうになかった。気を抜いたら、足元が崩れ落ちてしまうと思った。
「あなたには可能性があるの。私には無理だった、私には無かったものをあなたは持ってる!」
…切り離されたと思っていた腕が、実は繋がっていただなんてどうして信じられるだろう。
戻れるのだろうか。
何かに夢中になれる日々に。
あの、驚くほどに輝いていた、毎日に。
いい返事待ってるわ。若松先生はそう締めくくると、向こうから先に受話器を置いた。
また静寂に包まれた部屋の中に、ツーツーと繋がらなくなった電話の音だけが残っていた。
「…そんなの……」
吹き荒れる嵐は、雷雨すらも連れて来る。
鋭い光の剣は、あたしの心を突き刺しては貫き、全てを乱す。
「…そんな、今さら……」
喉の奥が渇いて、ヒリヒリと痛んだ。
洲が家に来ていた時に出したアルバムは、棚の上に出しっぱなしになったままだ。赤い表紙が探るようにこちらを見ている。あの中に収まっている思い出。
幼い頃の無邪気な笑顔は、思い出すだけで泣きそうになるのに。
どうしていいかわからず、あたしはただその場に立ちすくんでいた。
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