櫻の園
目を閉じて、規則的にゆっくりと呼吸をする。
瞼の裏には、なぜか櫻華のみんなの顔が浮かんだ。
『ねぇ、これあたしたちでやろうよ!!』
美登里が目を輝かせて、あたしの肩をつかむ。
『桃見て見て〜!!超可愛いんだけどっ!』
奈々美が、ドレス姿であたしの元に駆けてくる。
『結城さんは頑張ってると思う!!』
真っ赤に頬を染めて、あたしをかばってくれた赤星さんを思い出す。
『"桜の園"、上演できたら…何か変わる気がしたんだ』
葵が笑う。照れたように、少し、唇の端を上げながら。
放課後が待ち遠しかった。みんなに会えるのが、嬉しかった。
"桜の園"──いつの間にか、あたしの生活の中心軸になっていたんだ。
ピンポーン……響くチャイムの音で、突然現実に引き戻された。時計の針は16時を過ぎたところ。お母さんたちはまだ仕事の時間だった。
「…お姉ちゃん?」
結婚式の打ち合わせは、早めに終わったのだろうか。もう一度チャイムが鳴ったので、不思議に思いつつも玄関に近寄る。
おそるおそる外の様子を窺うようにドアを開く。…そして目を、丸くした。
「…よっ」
困ったような瞳。
目の前にあったのは、広い胸元。
「なんで…?」
「…ちょっと近くまで寄ったからさ。つかお前、携帯通じねぇし。何かあったんじゃねえかって心配しただろ」
洲が、玄関に立っていた。
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