櫻の園


目を閉じて、規則的にゆっくりと呼吸をする。


瞼の裏には、なぜか櫻華のみんなの顔が浮かんだ。



『ねぇ、これあたしたちでやろうよ!!』

美登里が目を輝かせて、あたしの肩をつかむ。


『桃見て見て〜!!超可愛いんだけどっ!』

奈々美が、ドレス姿であたしの元に駆けてくる。


『結城さんは頑張ってると思う!!』

真っ赤に頬を染めて、あたしをかばってくれた赤星さんを思い出す。


『"桜の園"、上演できたら…何か変わる気がしたんだ』

葵が笑う。照れたように、少し、唇の端を上げながら。



放課後が待ち遠しかった。みんなに会えるのが、嬉しかった。


"桜の園"──いつの間にか、あたしの生活の中心軸になっていたんだ。



ピンポーン……響くチャイムの音で、突然現実に引き戻された。時計の針は16時を過ぎたところ。お母さんたちはまだ仕事の時間だった。


「…お姉ちゃん?」


結婚式の打ち合わせは、早めに終わったのだろうか。もう一度チャイムが鳴ったので、不思議に思いつつも玄関に近寄る。

おそるおそる外の様子を窺うようにドアを開く。…そして目を、丸くした。


「…よっ」


困ったような瞳。

目の前にあったのは、広い胸元。


「なんで…?」

「…ちょっと近くまで寄ったからさ。つかお前、携帯通じねぇし。何かあったんじゃねえかって心配しただろ」


洲が、玄関に立っていた。






.
< 129 / 193 >

この作品をシェア

pagetop