櫻の園


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世界の中心は誰だって自分だ。

自分を中心に世界が回ってるとか、そういう意味じゃなく…それぞれの人生ではその一人一人が主人公なのだ。

生きていく度に話は進む。

主人公は泣いたり、笑ったり、表情を変えて生きていく。


でもその裏で、誰かが泣いていたとしても物語には決して出てこないのだ。





「────?」


気がつくと辺りは暗かった。目は冴えてしまっていたから、眠っていたわけではない。

洲が帰ってしまってからどれくらい長い時間、ぼうっとしていたのだろう。


時計を見ると、夕飯の時間はとっくに過ぎていた。それに気づいて、やっとお腹がすいていることを自覚する。

リビングに降りてみたが、そこにも電気はついておらずに薄闇が広がっているだけだった。


「………?」


いつもならお姉ちゃんが夕飯前には帰ってきて、花嫁修業だと手料理をふるってくれるはずなのに。


不思議に思いながら部屋に戻ろうとして、ふと玄関を見る。

お姉ちゃん愛用のパンプスが、きっちりと揃えられて並んでいた。


(…帰ってきてる?)


もしかしたら、自分の部屋で寝てしまっているのだろうか。

ドアの隙間から光は漏れていなかった。様子を伺うように、そうっとお姉ちゃんの部屋のドアに手を伸ばす。


「お姉ちゃん…?」


ベッドにあるかと思われたお姉ちゃんの姿は、そこにはなかった。


散乱した部屋の中。

暗闇に浮かび上がる、引っ越し用のダンボール。


お姉ちゃんはその床の真ん中で、へたり込むようにして座っていた。


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