櫻の園
お姉ちゃんが今にも崩れ落ちそうで、怖くなってそっと一歩近づいた。

彼女の手には、あたしが投げ捨てたままだった…あの台本が握られていた。


驚いて顔を上げる。お姉ちゃんの横顔は、とても白かった。


「…お姉ちゃん──」

「先輩となら、学校やめてもいいって思ってた」


お姉ちゃんの顔が歪む。歪んで滲んで、安定感を失くした。


「やさしくて、頭がよくて、髪がきれいで…ああいう人になりたいって、ずっと憧れてた」

「……」

「先輩が好きだったの。…大好きだった」


台本を握るお姉ちゃんの腕が、こんなにもか細いことに初めて気がついた。

お姉ちゃんにも、あたしの時代があった。お母さんにも、お父さんにも、あたしみたいに苦しんで、悩んで…それでも、失いたくない、輝いた日々があったんだ。


「…もう、あの時は、戻ってこないのよ…」


自分でも知らないうちに、あたしも泣いていた。

涙で滲んだ星の光は、まるで舞い込んでくる桜の花びらのように見えた。







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