櫻の園

自分の部屋に戻っても、あたしはしばらく魂を抜かれたように、ただ呆然としていた。

こんなにも喪失感に襲われたのは初めてだった。何かに打ち抜かれてこぼれ落ちてしまったみたいに、心の中が空っぽだった。


「っ…!!いったぁ…」


のっそりと立ち上がろうとした途端、床に転がっていた携帯を踏みつけてしまった。何も映し出さない、真っ黒いままの画面。


『メール送ったのに返信ないからさ』


…そういえば電源を落としっぱなしだった。充電器を差し込み、コンセントに繋ぐ。

ようやく息を吹き返した携帯は、四角いディスプレイをチカチカさせてあたしに見せつけた。

そのままそれを閉じようとした時だった。

携帯がブルブルと、あたしの手の中で振動し始めたのは。

受信ランプは着信を知らせる色だった。何気なしに画面を見る。


そして、思わずその携帯を落としそうになってしまった。


「…何これ……」


画面に表示されたのは、おびただしい着信の数だった。

その着信のほとんどに、留守電が入っている。




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