櫻の園
知っている名前ばかりだった。
たった何日か見ていないだけなのに、口にしていないだけなのに、ずいぶんと懐かしい…みんなの名前。
どうして──…
震える指で、再生ボタンを押す。機械的な電子音の後に続いた声に、うまく息ができなかった。
ピーッ
「…桃、葵です。"桜の園"のことは…先生から聞きました。うまくまとまらないけど、私…桃が戻ってきてくれるって、信じてるから。桃の居場所は…、ずっと、ここにあるから…っ!!」
ピーッ
「…ごめんね、桃。美登里です。あたしは何度謝っても許されないことをしたと思う。桃だけを悪者にしてしまって…でもね、あたしは桃が好きなんだ。桃があたしなんか大嫌いになってしまっても、あたしはずっと桃の友達でいたいの!あたしのこと、気が済むまでののしっていいから…だから、もう一度、話がしたいです」
ピーッ
「奈々美です。放課後の演劇が無くなってから、あたし…なんかぽっかり穴あいちゃったみたいで。…寄り道ばっかして一キロ増えちゃったし!!…でも、でもね、前みたいに遊んでも、前みたいにさ、お弁当食べても…桃がいなきゃ、なんか…さみしいよ。」
ピーッ
「結城さん、私ね。今までやりたいこととかそんなになくて。…きっとこのまま卒業するんだろなって、思ってて。でも…最近ちょっと学校に来るの楽しみで…、早く放課後にならないかなって思ったりして……お稽古の後のお水、あんなにおいしいなんて…あたし…っ、」
ピーッ
「…ここにいられるの、今年でもう最後だから…。来年の今頃には、みんなバラバラになっちゃうから…っ!私…やりたい。"桜の園"…みんなでやりたいの!」
ピーッ
「あたしたちには…桃が、必要なの!!」
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