櫻の園
顔を真っ赤にして怒る教頭先生に、赤星さんが声を張り上げて前に進み出る。


そこにはかつての、型にはまった優等生の「赤星さん」はいなかった。


「"桜の園"をやらせてください!!お願いします!!」

「お願いします!!」


次々に頭を下げていくみんな。あたしはただ、未だに信じられない気持ちで呆然とそこに立っていた。

いつもの威厳も丸投げにして、痛々しいほどに叫ぶ教頭先生。


「出て行って!!今すぐ、出て行きなさいっ!!」


あたしたちの間でオロオロしていた他の先生たちも、教頭先生の声で慌ててみんなを外へ追いやろうとした。

学びの中心の場であるはずの職員室が、まるで戦争のような大乱闘だ。


「ちょっと放してよっ!!」

「まだ話は終わってないんです!!」


もみ合いになる先生と生徒。騒ぎを聞きつけたのか、廊下にはたくさん他の生徒までも覗きに来ている。

あたしが急いで駆け寄ろうとした時──、


「今にもワーッと叫ぶか、バカなことをしでかしてしまいそう…助けて、ペーチャ!助けて…!!」


職員室に、葵の声が大きく響いた。


「なんて素晴らしい桜の園!白い花の雲に、青い空……!!」




息を呑んだ。


鳥肌が立った。



静まり返った職員室。



…それは、"桜の園"のセリフだった。




.
< 149 / 193 >

この作品をシェア

pagetop