櫻の園
葵を押し出そうと躍起になっていた先生の手が止まる。


その瞬間──。まるで、舞台が始まったかのようだった。


「ご一緒に、ここを出て行きましょう!あたしたちの手で、ここより立派な新しい園を作るわ!!」


「ええ、ここの暮らしは終わりました。もう戻ってはきませんわ…」


「今や桜の園は私のもの、私のものです!神様、酔っ払いのたわごととでも、幻を見ているとでも言ってくれて構いません!!」


みんなが口々にセリフを叫ぶ。

騒がしかった職員室に、新たな空気が流れ込んだ。


職員室の真ん中で立ち尽くすあたし。


…気がついたら、涙が頬を伝っていた。



「みんな…バカだ…っ、」



何しちゃってんの?

職員室に全員で乗り込んでくるなんて、馬鹿らしすぎて笑えないよ。

セリフとかまで言っちゃって、ほんと何してんのよ。


進学、取り消しになったらどうするのよ…。



「ほんと、バカ……」


ボトボトと、大粒の涙が床を濡らした。先生たちが驚いたようにこちらを見る。でも、止まらない。

あたしはぐちゃぐちゃになったままの顔を上げて、口を開いた。


「…僕の心は、いつも、どんな時にも、夜も昼も、予感に満ち溢れています。僕は、幸福を予感します。すでにそれが、見えているのです…!!」



滲んだ視界。


涙が次々にこぼれていく。


…みんな、泣いていた。



「"桜の園"、やらせて下さい!!お願いします!!」

「お願いしますっ!!」


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