櫻の園


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『忙しい時ほど、時間が過ぎるのが早い』とは誰が言ったものか。


その通りあっと言う間に過ぎていった日々。

でも本当は、時計の針はずっと同じように時を刻んでいる。ただあたしたちが他のことに一生懸命すぎて、その間にゆったりと流れ過ぎた時間に気づかないだけなんだ。




「…とうとう明日ね、"桜の園"。みんな今まで、本当によく頑張ってくれたと思うわ」

狭苦しく肩を寄せるようにして集まった、広い教室の中心。

最後の練習はいつもの半分ほどの時間で切り上げられた。

一通りみんなの顔を確認した佳代先生は、一度大きく息を吸い込むとあたしたちにニッコリと笑いかける。

「やれることはやったし、後は自分の力を出し切って下さい。練習の通りやれば大丈夫よ!!」

「はい!!」

一斉に揃った声は、一人分の何倍もの威力で教室いっぱいにこだました。


…とうとう、明日だ。

いままでの練習の成果が、明日の上演一回きりに集結する。


当日用に一か所にまとめられた小道具。解散の言葉がかけられた後も、あたしたちは珍しく黙ったまま、みんなしばらくその場を動けないでいた。

みんなの緊張が、肌にひしひしと伝わってくる。

明日は全校生徒、それに一般客まで大勢の人が見に来てくれることになっている。十数年ぶりの再演とあって、あたしたちの"桜の園"は大きな話題として取り上げられていた。

静まり返った空間。その時突然、ぐう、とまぬけな音が響いた。


「……?」

「…ふはっ!ちょっと美登里ぃ、笑わせないでよ〜!!」


振り返ると、真っ赤になってお腹を押さえる美登里の姿があった。クスクスと巻き起る笑い。せっかくの緊張感も、すっかりどこかへ吹き飛んでしまっていた。


「だって頑張りすぎてお腹すいちゃったんだもん〜!!」


ぷくっと頬を膨らます美登里は本当にいつも憎めない。なだめるように美登里の頭を撫でる葵。ああ、このメンバーでこうやって過ごすのも最後なんだなぁ、と改めて思うと、なんだかとても寂しくなる。

ポン、と手を打って、奈々美が何かを思いついたように目を輝かせた。


「…ね!!みんなでクレープ食べに行こうか」


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