櫻の園
「はいはいみんなっ!!ちょっと注目〜!!」
みんなの胃袋にクレープがちょうど収まった頃、奈々美がぶんぶんと手を振り上げて声を張り上げた。
自慢気ににんまり笑うと、腰に手を当てたままあたしに向かって歩いてくる。
何かと思って首を傾げると、いきなり目の前にクレープにささっていたスプーンを突き出された。
「とうとう明日ということで、団長の桃からのお言葉ですっ!!」
「…はぁっ!?いつからあたしが団長になったのよ!!」
「いいからいいからぁ、はいっ!!」
白いスプーンはマイクのつもりだったのか…奈々美の手から、しぶしぶとそれを受け取る。
こういう場面は慣れていないのに。みんなの注目が、あたしに集中していてこそばゆい。
「ええーっと…いよいよ明日ということでして…」
「お堅いぞ、桃〜!!」
「も〜うるさいなぁっ!えっと…みんな、今まですごい頑張ってきたって思う。だから、絶対成功すると思うし…」
気づけば、佳代先生と全く同じことを言っている自分がいてちょっと笑えた。
みんながじっと、あたしの言葉を待っている。
言葉が止まって、頭が空っぽになって、何を言っていいのか、もうよくわからなくなってしまった。
「…あたし、楽しかった。しんどいことも、苦しいこともあったけど…みんなと、このメンバーとやれて良かったって思ってる。あたし…こんな仲間ができたの、初めてだったから…」
作ろうとすると頭が真っ白になるのに、心の中をそのまま吐き出すと…もう言葉が止まらない。
次々と溢れてくる思いは、クレープのアイスのように一気に溶けだしてしまうから。
「…もうさ、放課後にこのメンバーで集まったりとか…無くなっちゃうって思ったら…なんか寂しいなぁって、…終わってほしくないなぁって、思う」
スプーンをぎゅっと握ったまま、恥ずかしくなって俯いた。
…やっぱり向いてないな、こういうの。
だってあたし、何言ってるんだろう。普通なら、明日頑張ろうね!みたいに激励の言葉で締めくくるものなのに。
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