櫻の園
静まりかえってしまった周りに、恐る恐る様子をうかがうように顔を上げる。


「──うぐっ!?」


その瞬間、お腹に突然ボールをぶつけられたような鈍い痛みが走った。

瞼を持ち上げると、目の前にはツヤツヤと丸みを帯びた…美登里の頭。

美登里の両手は、あたしの胴体にぎゅうっと巻き付いていた。


「美登里…?」

「…あたし、桃ちゃん大好きなんだからっ!!」


美登里の大きな瞳は、下から睨みつけるようにあたしを見る。

その目は潤んで、映り込むあたしの姿はぐらぐらと揺れた。


「劇が終わったって、ずっと友達だよ!!」


まるで一生分の告白を受けたみたいな。そんな風に、胸が熱くなった。

美登里の言葉を皮切りに、みんな一斉にあたしの元に駆け寄ってくる。


「もーも〜っ!!あたしも大好きよーっ!!」

「あたしもーっ!!」

「ちょっと…っ!!これ以上乗ったら倒れるってば!!」


…こんな青春ドラマみたいなシーンに自分がいるなんて。


バカみたいだ。バカみたいで、なんて愛おしいんだろう。


あたしたちはまだまだ子供で。少し大人なフリをして、でもやっぱりちっぽけで。

大したことない出来事にも、一喜一憂してしまう。


でも、冷めた目で周りに壁を作っていたあの頃より…その方がずうっといい。


みんな笑っていた。笑っているのか、泣いているのかよくわからないくしゃくしゃの顔だ。



…ねぇ葵。

あたしも自分のこと、前よりずうっと好きになれた気がするよ。







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