櫻の園
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自分の居場所は、作ろうとして作るものじゃない。
心を開いて、正直に生きているうちにいつの間にかできているものなんだ。
あたしは今になって、やっとそのことに気がついた。
台本をカバンから取り出すと、勉強机に腰掛ける。
もう開かなくても、隅々まで内容は頭に入っていた。
足元がソワソワする感覚が拭えない。
…眠れるかな。こんな時間から、そんなことばかり心配してしまう。
少しズレたベッドの布団を直したり、お母さんに無理やり置いていかれたぬいぐるみを、キチンと座らせてみたり。
はやる気持ちはどんなに深呼吸を繰り返しても落ち着いてはくれなかった。
カーテンの隙間からのぞく漆黒の闇が、部屋に漏れ入ってくるようで何だか少し肌寒い。
ペラペラと台本を捲りながら、あたしは物思いにふけっていた。
─思えば、本当にいろんなことがあった。
こんなに密度の濃い時間は、今まで生きてきた中で無かったように思う。
信じられないほど泣いた。怒った。悔やんだ。
そして、笑った。
そしてきっとこれからも、みんなで過ごしたこの日々はあたしの中に色濃く残るのだ。
…この台本との出会いは、あたしにとって運命だったのかもしれないなんて。そんな風にすら思えてしまう。
ただ埋もれていくだけのはずだった日々を、変えていくための。
あたしが台本を閉じたちょうどその時、コンコン、と部屋のドアがノックされた。
そこから顔をのぞかせたお姉ちゃん。にっこりとあたしに笑顔を見せて、手招きをする。
「ご飯できたよ!下りといで」
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