櫻の園
サアサアと窓に吹き付ける風の音は、まるで降りそそぐ雨のようだった。
少しばかり食べ過ぎたようだ。重たくなったお腹を持ち上げるように、二階へと上がる。
自分の部屋に入ろうとして、お姉ちゃんの部屋のドアが開きっぱなしになっているのに気がついた。
広がる暗い背景。その中は、竹内さんとの新居への引っ越しの荷物が詰まった段ボールが散乱しており、散らばった洋服はまるで嵐が過ぎ去った後だ。
電気をつけないまま、あたしはそっとお姉ちゃんの部屋に入った。
…あたしの部屋と同じ作りなのにどこか雰囲気が違うのは、カーテンの色のせいだろうか。
幼い頃、互いにピンクがいいと譲らなかったのを、お父さんたちが掛け合ってお姉ちゃんがしぶしぶブルーにしてくれたのだ。
もともとすっきりした部屋は、物が減ってさらにもの寂しくなっていた。
持って行くものといらないものにわけられているらしい山。
どうやらいらない方らしい山には、昔お姉ちゃんがよくつけていたチェックのマフラーがあった。
「気に入っていたくせに…」
あたしが知らない間に着々と進められていた、ここを去る準備。
あたしはただぼんやりと、その場に突っ立っていた。
「!!」
その時、お風呂場からガチャリとドアが開く音がした。
お姉ちゃんが上がったのだろう…階段の下からふんわりと漂ってくる、シャンプーの香り。
慌てて部屋を出ようとして…しかし思わず、足を止めてしまった。
すっかり物が無くなった机の上。
そこにはただ、一枚の写真が置かれていた。
「───!!」
そこに写っていたのは、お姉ちゃんと佳代先生だった。
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