櫻の園
高校時代のものだと、すぐにわかった。

あたしと同じ制服に身を包んだお姉ちゃんと佳代先生。

寄り添うようにして二人、カメラに優しい笑みを浮かべている。今よりずいぶん、幼くて可愛らしい。


…こんな時代が、お姉ちゃんたちにもあったんだ。


わかってはいたが、目の前にそれを出されるとなぜか心の奥が疼いた。



「桃〜っ!!お風呂あいたから入りなさいよー!!」

「…っ、はーい!わかった!!」


階段の下から響いたお姉ちゃんの声に条件反射でそう答えると、すぐに自分の部屋に駆け込む。

ドアを閉めると、その場にズルズルと座り込んだ。



…どうしてか、自分でもよくわからない。

でもなぜか、心臓を握られるように切なくてたまらなかった。



『もうあの頃には戻れないのよ…』



写真に閉じこめられた、おぼろげな二人の笑顔。


今は過ぎていく。

止まることも、あたしたちを置いていくこともせず…ただ刻々と。


あたしにも、「あの頃」と懐かしむ日がいつかやってくるのだろうか。

焦りや不安にまみれ、ただ精一杯だった日々を…穏やかに、見つめる日が来るのだろうか──。


どうしようもない気持ちに襲われて、あたしはその場に崩れ込んだまま目を閉じた。



頬の熱をさらう風。


瞼の裏。


白いリボンを揺らしながら、お姉ちゃんと佳代先生が笑い合っている光景が…見えた気がした。




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