櫻の園
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それぞれに優雅な衣装で着飾った出演者たち。
しかし実際、控え室は優雅の欠片もないほどに慌ただしかった。
「ちょ…あたしのビューラー知らない!?」
「もー!!うまくライン引けないよぉ〜」
鏡の前で、普段はしないメイクに必死に励む美登里たち。
舞台用のメイクは、遠目からでもわかるようにずいぶん濃くしなければならない。
真っ白に塗り込められた肌に、クレヨン幅で引かれたアイライン。
しかし失敗した美登里の左目は、舞台用メイクに収まるどころかお化けみたいだった。
「もーもぉー!!助けて〜!!」
「…ハイハイ」
重たい腰を起こすと、化粧落としとアイライナーを持って恐ろしい顔をした美登里の元へ向かった。
当日は朝から、雲一つない晴天だった。
ホールで行うので雨でも問題はないのだが、それでもやはり晴れてくれた方がテンションは上がる。
あたし晴れ女だから、と美登里が自慢気にいばっていたのが、なんだか笑えてしまった。
あたしが何とか美登里の化粧を直してやり、全員の格好がやっと形になった頃。
奥の部屋から、衣装もメイクも済ませ、すっかりラネーフスカヤになった葵が現れた。
「きゃーっ!!小笠原先輩チョーきれいっ!!」
「あとで一緒に写メ撮ってくださいっ!!」
目の色を変えて抱きつき合う一年生たち。
困ったように笑う葵に、赤星さんはただ時が止まったようにぽかんと口を開けて、見とれていた。
長身に、ロングドレスが尚更よく映えている。
「葵!すっごいオーラ出てるよ!!」
「本物の女優さんもビックリだって!!」
葵に詰め寄る美登里と奈々美。
前にも増して、一気に控え室が騒がしくなる。
あたしがふう、とため息をついた時、すぐ隣で一年生の一人が「あーっ!!」と驚くような大声を上げた。
「…どしたの?」
「すいませんっ!!あたし、旧校舎の教室に花びら忘れてきちゃいました!」
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