櫻の園
あたしなんてガッツリ食べてきちゃったよ、と葵はくったくなく笑う。
周りの空気が弾けるように、キラキラと光を反射した。
赤星さんは眩しそうに葵を見上げると、自信なさげにポツリと言葉を漏らした。
「小笠原さんって、すごいな。きっと緊張とかあんまりしないのよね。あたしなんて、人に注目されるのに慣れてないから…」
「……」
「…あたし、ずうっと人付き合いとか下手で。できるだけ関わらないようにしてたから…」
赤星さんは俯いて、白い携帯をギュッと握った。
思わずあたしも、自分の手に力を込める。
赤星さんは、何かを心に決めたように真っ直ぐに顔を上げた。
「…あたし、ずっと小笠原さんに憧れてた」
その視線は、葵へと真っ直ぐ向けられる。
いつものように、照れたり慌てて目をそらしたり。赤星さんは、決してそんなことはしなかった。
「あなたみたいになりたい…って、いつも思ってたの」
太陽の光が、頭上へと降り注ぐ。
葉桜がワサワサと揺れ、空気の流れを訴える。
あたしの側からは葵の背中しか見えなくて、彼女がどんな表情をしているのかわからなかった。
息を呑む沈黙。
そしてそれは、あまりにも自然に。
「────、」
ふわりと、葵が赤星さんを抱きしめていた。
「…あがらない、おまじない」
…世界が、止まった気がした。
くすんだ色をさらっていく、爽やかな風。
「…ホントはね、あたしもものすっごく緊張してるんだ」
葵はそう言って、ふんわりと柔らかな笑みを浮かべる。
それは映画のワンシーンのように、あたしの中に焼き付いた。
すごくすごく、穏やかで暖かな気持ちが流れ込んでくる。
それは今日の日差しを、もう少し丸くしたものにとても似ている気がした。
微笑み合う二人を後に、あたしはそっと、その場から離れた。
.