櫻の園
流れゆく空気の中。
サンサンと降る光は、まるで一足先に祝いの拍手を送っているようだ。
「…赤星さんはまだ来てないの?」
周りを見渡して、彼女らしい姿を探す。
舞台関係の人たちが多いのだろうか、思わず目を引くような美人が多かった。
それはまるで、葵の広がった世界を見ているかのようだ。
「あれ?赤星さんならずいぶん早くから来てたはずだけど…」
「っていうか知ってた?桃!!赤星さん、すっごいんだから!」
まだ腕に巻き付いたままの美登里が、興奮した様子でズイと顔を近づけた。
「今、外国に住んでるらしいよ!?」
「え…外国!?」
「うん!海外の企業で、バリバリのキャリアウーマンやってるんだって!!」
そう言って自分のことのように胸を張る美登里。
なんでアンタが威張るのよ、と、奈々美がつかさずそのわき腹を小突く。
そんな二人の様子がおかしくて、吹き出すように笑ってしまった。
あの、赤星さんが──。
今日のために内巻きにセットした髪が、首筋に当たってこそばゆい。
赤星さんなら似合うような気もしたし、どこか不思議な気持ちにもなった。
あたしの中の赤星さんは、未だに櫻華の制服姿のまま…そのまま深く、刻まれていたから。
奈々美はスタイリストとして、美登里は教師として、それぞれ頑張っているらしい。
美登里が先生だなんて、なんだかおかしくてまた笑ってしまったけれど、生徒の話をする美登里はとてもしっかりして見えるものだからこれまた不思議だ。
「佳代ちゃんみたいな先生になりたいんだ」
そう言った美登里の横顔は、とても輝いて見えた。
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