櫻の園

バイオリンの打ち合わせのこともあり、あたしは二人にいったん別れを告げて、結婚式場の控え室へと向かうことにした。


太陽の光を真っ直ぐに受け、穏やかな空気に身を預ける白い建物。


堂々としたそのたたずまいは、今ではもう取り壊されてしまったあの旧校舎にとても似ていた。



忙しく過ぎていく日々の中。それでも色褪せない、あの頃のあたしたち。



建物内は思っていたよりとても広い。

メモ用紙に書かれた控え室の部屋をキョロキョロ見渡して探しながら、ふと視線を向けた先。


あたしは、思わず意識を奪われていた。


「……?」


開かれたドア。その向こうに続く、非常階段の踊り場。


そこには、シンプルな水色のドレスをまとった女性が佇んでいた。


後ろ姿からかもしだされる、女性らしい雰囲気。

外を眺める彼女の髪は、ゆらゆらと柔らかく風に揺られていた。


あたしの視線に気づいたように、こちらを振り返った彼女。


綺麗にまとめられた前髪からのぞく額に、少し上がり気味の眉。


「…結城さん?」


サァ…ッと吹きこむ風が、あたしの髪の下をくぐる。


すぐには、目の前の女性が誰なのかわからなかった。


「え…、赤星さん…!?」


驚いてその場に立ち尽くすあたしに、赤星さんは肩をすくめて小さく笑った。


"見違える"という表現は、まさしくこういう時に使うものなんだろう。


赤星さんはとても綺麗になっていて、凛とした表情には迷いのなさが表れているようだった。


「ほんとに久しぶりね。元気にしてた?」

「…ビックリした…なんか雰囲気変わったね」

「そう?結城さんこそなんか違う女の人みたいよ」


はにかんだようにそう言うと、赤星さんはあたしが手にしているバイオリンケースに目を向ける。


「…東京で頑張ってるらしいわね、バイオリン」


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