櫻の園
コンクリートに跳ね返るのだろうか。

あたしたちの他に誰もいない非常階段は、声がとても大きく響く。


右手にぶら下がる、慣れた重み。


「…うん、頑張ってるよ」


後ろめたい気持ちなく言い切れる。


触れるのさえ恐れていたその重みが、今ではこんなに愛しいのだから。


「っていうか聞いたよ?赤星さんこそ、すごいらしいじゃん!」

「え…?」

「海外企業で、バリバリのキャリアウーマンだって!!」


身を乗り出すようにそう言ったあたしに、赤星さんは真ん丸く目を見開いた。

ゆらゆらとその中で揺れる光は、いまだ焦点を定めきれていない。


「…映画の編集の仕事なんだ。バリバリどころか、まだまだ半人前なんだけどね」


照れたように、それでもハッキリとそう言った赤星さんから、本当にその仕事が好きなんだと伝わってくる。

なんだか聞いているこちらまで、幸せな気持ちが滲み出してくるようだった。


階段の下に広がる景色はとても綺麗で、その一角はまるで額縁に入れられた風景画のようだ。

それでもかすかに揺れる木々が、流れ行く時の中で息づく生命を教えてくれる。


しばらく二人、黙って外の景色を見ていた。


「…ねえ」

「ん?」

「…こうしてると、あの頃に戻ったみたいね」


水色のドレスの裾が揺れる度、なぜかくすぐったい気持ちに駆られる。


並べられた肩。

細められた目。



「…そうだね」



いつかの高校時代の日が、蘇ってくるようだった。




『結城さんのことが、うらやましかったの』




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