櫻の園


唐突に。すごく、突然に。


…あたしたちは生きているんだなぁ、と思った。


当たり前のことかもしれないけれど、特別なことじゃないのかもしれないけれど。

みんなそれぞれに、自分の道を進んでいるのだ。


同じ場所にいたあたしたち。悩んで、泣いて、苦しんで。


でもあの涙は必要で、あの笑顔は今に続く始まりだった。



あの場所、この仲間がいなければ、今のあたしはきっと無かった。

きっと今、こうして生きた日々を過ごせてはいなかった。




赤星さんと別れ、急いで約束の控え室へと向かった。

メモに書かれた殴り書きの文字と、その場所があっているか確認する。


一度の深呼吸。


コンコン、とノックすると、ドアの向こうから懐かしい声で返事が聞こえた。


ドアノブを握る。

ゆっくりと、右に回す。


「桃…っ!!」


控え室の扉を開くなり、あたしの意識は全てその一点に奪われた。


純白の衣装に身を包んだ葵。

向けられた眩い笑顔。


理想を絵に描いたようなその美しさに、あたしは思わず息を呑んだほどだった。


「久しぶり!忙しいのに引き受けてくれてありがとう」


まるで夢を見ているようだ。


「葵…」

「ん?」

「…すっごいキレイ」


感心して穴が開くほどに見つめるあたしに、久しぶりに見る葵は照れたように微笑んだ。


「…結婚相手よりも先に言ってもらっちゃったな」



葵からのリクエストは、式場で入場行進する時の曲をあたしに弾いてほしいということ。

そんな重要な役を引き受けていいのかと戸惑ったが、葵はあたしにぜひと言ってくれた。


「桃の演奏会、本当に感動したもの」

「…見に来てくれてるなんて、思わなかった」


そっと見上げた視線の先葵の彼女は、また一段と美しさに磨きがかかっているようだ。

いつもいつもこれ葵以上に綺麗な人はいないと思わされるのに、その当人が易々とそれを越えていってしまうのだから。


まだ上があるのかと、あたしは毎回驚いてしまう。


「うん。舞台の仕事が東京であって、その時にね」

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