櫻の園

葵は女優の夢を実現し、今は舞台を中心に活躍している。

今度あたしも葵の舞台を見てみたい、そう言うと葵は本当に嬉しそうに笑った。


『小さい頃からずっと男の子みたいって言われてきて…騒がれるのもさ、女子校だからしょうがないなって思ってて』


劇の前日、初めて知った葵の裏側。

見えていたのは正面の円だけで、それがいろんな面を持つ丸い球体だったなんて知らなかった自分。


『それに答えようとして、カッコつけて…ずっと嫌いだったの、自分のこと』


内面から溢れ出すオーラ。

今、目の前の葵は自信に満ち溢れていて、どこから見ても輝いていた。




「新婦さん、すみません!そろそろ後のご準備の方を…」


音をたてずに開いたドア。

そのドアから、係らしき女の人が申し訳なさそうに顔をのぞかせる。


「あ、はい!…桃、演奏よろしくね」

「うん、後でね!葵」


口元に笑みを浮かべ、葵に向かって手を振った。

控え室から出ようとして、ドアノブを握る。


その時ふと、聞き忘れていたことに気がついた。


「…葵」

「ん?」

「今でも、自分のこと…嫌いって思ったりする?」


あたしの突然の質問に、葵は目を丸くする。

そしてその瞳がゆっくりと細くなり、とても優しい色を帯びた。


「…ううん」


満面の笑みをこちらに向ける葵。

それはあの頃の無駄のない笑顔とは少し変わった、溢れんばかりの笑顔だった。




「好きだよ」










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