櫻の園


□□


満天の星空だった。


空いっぱいに広がる暗い闇は、星屑を抱えすぎているせいか少し重そうに垂れ込めている。


みんなと駅で別れて、実家からの迎えを待つ。

すぐに新幹線で東京に帰ってもよかったのだが、せっかくなので泊まっていけと、お母さんがそう言ってくれたのだ。


二次会と、それに続く飲み会のせいで未だに頬が少し蒸気していた。

夜の空気に、まだ馴染まない熱。


手を振って別れたみんなの笑顔は、まだ目の前にあるかのようにあたしの頭の中に映し出されている。

これが記憶になってしまうことを思うと…なんとも言えない、寂しいような、切ないような気持ちになる。


みんなまた、明日からは別々の場所で頑張っていく。

次に会えるのはいつだろうか。次は、みんなどんな風に変わっているのだろう。


それでもまた出会えた時は、みんなが集まった時には。あの変わらない暖かい雰囲気が迎えてくれると、根拠なしにそう思った。



どこまでも広がる星空。

手を伸ばしてみれば届きそうで、でも本当はずっと遠いその場所。


カバンの中の携帯を、手で探る。


…なんだか無性に、彼の声が聞きたくなった。



「…はい」

「洲?…今、大丈夫?」

「おう!結婚式、どうだった?」


耳に押し当てた電話口から、聞こえてきた洲の低い声。

あたしの髪を、夜の風が撫でていく。


「…すごい綺麗だったよ、葵」

頭の中で、ドレスをまとった彼女を思い浮かべる。

あたしの中の葵は、こちらを向いて笑っていた。


「…なんかさ、懐かしかった」

「うん」

「みんな変わってたけど…変わってないとこも、やっぱりあって」

「…うん」

「みんなそれぞれ頑張ってて、あたしも、負けてらんないな…って」

「…そっか」


届かないとわかっていても、あたしは空に向かって手を伸ばす。

指先に、冷たい空気が絡み付いた。


「…ねえ、洲」

「ん?」

「…好きだよ」


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