櫻の園
いつも真っ直ぐな洲。
あたしを支えてくれる洲。
洲の全部が、すごく好きだよ。
「おま…っ、いきなりなに言っ…ゲホッ!」
電話の向こうでむせかえる洲。
あまりの動揺っぷりに、おかしくて笑ってしまった。
『今でも、自分のこと嫌いって思ったりする?』
そう葵に聞いたあたしが、今度は自分に問い掛ける。
…きっと、首を横に振れる気がした。
夢を追い続けられている自分が。
こんな風に、素直に洲に気持ちを言える自分が。
あたしも葵みたいに、今の自分がすごく好きだって、言える気がするの。
「…桃」
「ん?」
「…明日、駅まで迎えに行くから」
道路のずっと向こうから、こちらに向かって馴染みのある車がやってくる。
チカチカ光るテールランプ。
フロントガラスに映る、お父さんの顔。
「うん…ありがと!」
あたしは立ち上がると、車に向かって大きく手を振った。
目指す先の光は、どんなに遠いかわからない。
掴めるか掴めないか、それは誰にもわからない。
長い道のり。
譲れないものが増えていく度、背負うものは重くなる。辛いことも増えていく。
惨めで、悲しくて、自分なんかもういらないって、そう思ってしまう時もある。
それでも、前に進んでいきたい。
好きなものを好きと言い、胸を張って…生きていきたい。
頭上に広がる星空。
澄みきったその白い光は、涙が出そうなほど綺麗だった。
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