櫻の園
「コンクールに出たくないワケでもあるの?」
やっとのことでオーディションが終わり、人気を感じさせなくなった控え室。
カツカツと尖ったヒールの音を立て、部屋に入ってきた若松先生は苛立ったオーラを隠すこともせずあたしの前に立ちはだかった。
「……何度も言ってるわよね。あなたの演奏法じゃコンクールでは勝てないの」
今じゃ進級すら危ういわ、吐き捨てるような言葉たちは、
あたしの耳をただ単調に通り抜けていく。
まるでため息をさらうように、ドアの隙間から、
ツンと鼻をつくような古い匂いを含んだ風が吹き抜ける。
……いつからだろう。
先生とのズレが生じてしまったのは。ヴァイオリンの弦が重くなったのは。
心から楽しめるものと、期待されるものが違ってきてしまったのは。
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