櫻の園
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─グラウンドの光景に視線を奪われた。
わぁ…っ、と割れんばかりに、グラウンドの一角から歓声が沸いたのだ。
その行方を見てみると、グラウンドの隅に固まったたくさんの女生徒たちが手を取り合って喜んでいる姿があった。
「……?」
慣れない制服のスカートの裾が膝上と擦れ合ってむずがゆい。
前を歩くスーツのボックススカートからすらっと伸びた足。遅れをとらないように早足になる。
未だ騒がしい女生徒たちの視線の先には、黙々と一人ハイジャンプを続ける、女の子がいた。
流れるような黒髪に、長身が目を引く。
無駄なく引き締まった長い足は軽やかに、まるで踊るように助走をつけ、真っ直ぐにバーへと向かう。
反り返った彼女の身体。
宙へと舞う、鮮やかな四肢。
それはまるでスローモーションのように、あたしの瞳の奥に焼き付いた。
わぁ…っとまた空気が沸き立つ。飛び交う黄色い声援。興奮状態の見物者たちは、口々にグラウンドの彼女を評価し合っていた。
「ね、小笠原先輩こっち見たーっ!!」
「もーマジかっこいいっ!!やっぱりスタイルいいよね〜っ!!」
彼女の一挙一動に色を変える見物者たち。
まるで弾かれたおはじきのように忙しなく、それでいて一つも見逃すまいと背伸びをするつま先は、微動だにせず真っ直ぐに伸びていた。
(ヘンなの…)
心の中で呟いた。だってあんなのまるで、男性アイドルの追っかけみたいだ。
「どうかした?結城さん」
「…え?いえ、別に…」
先を歩いていた二本足が歩みを止める。振り返った彼女は、クスリと優しい笑みを浮かべた。
「まさか結城さんの妹さんの担任になるなんてね」
目の前の柔らかそうな髪は、穏やかな風にとても綺麗にたなびいていた。
差し込む光の眩しさに細めた視界に滑り込んできたのは、まるで自分を主張するかのようなピンク色。
─芽吹いたばかりの、春の色だった。
「…佳代先生とうちのお姉ちゃん、仲良かったんですか?」
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