元カレバンドDX
 充晴のベースの音は、あたしのすべてを包み込み、それはまるで精神安定剤のようだった。

 あたしの歌と充晴のベースが、絶妙なグルーヴを生み、お客さんが気持よく乗っているのがわかる。

 歌いながら、たまにちらっと充晴を見た。

 低い位置でベースを弾くその姿は、さらに胸を高鳴らせる。

(あぁ……あたし、今、最高に幸せ……)

 音楽と恋愛という最高の組み合わせを1度に楽しめるなんて、盆と正月が一緒に来たみたいだ。

 しかも、あたしたちは同じ夢を持っている。

 バンドでメジャーデビューをするという、大きな目標があるのだ。

 あたしは、歌うたびにテンションが上がっていくのを感じた。

(絶対にデビューしようね!!それで、ゆくゆくは結婚もするんだ!!)

 あたしの野望は果てしない。

 けれど、充晴と一緒ならなんでも叶う気がした。

 なんでも叶えてしまえる気がした。

 人生は自分の手で思い通りにすればいい。

 勝者と敗者の分かれ目は、意外とそういうところなのかもしれない。
< 117 / 237 >

この作品をシェア

pagetop