元カレバンドDX
「イヤだ」

「じゃあ、あたしがタクシー拾って今から行く!!」

「ダメ」

「はい!?!?」

「少し時間ちょうだい。な?」

 充晴って、こんなに頑固な性格だったんだと、このとき初めて知った彼の一面だった。

「…………わかったよ」

 あたしは渋々了解をして、最後に「絶対連絡してよ」と約束して電話を切った。

 あたしの勘は、今回も当たってしまう結果となったようだ。

 姿見の前に座り、自分の顔を見つめてみる。

 気づかぬうちに、頬には涙の筋ができていた。

 なんでいつも泣かされてしまうんだろう……

 あたしは、ただ穏やかに恋愛をしたいだけなのに……

 恋愛の不条理さに、憤りを感じながらも、仕方なく充晴からの連絡を待つことにした。

 「時間が欲しい」ということは、まだあたしにも可能性は残されているのだ。

 そのわずかな可能性に、あたしは賭けてみることにした。

 あたしはこう見えても、運だけは強い。

 それだけを頼りに、あたしは落ち着かない日々を過ごすことにした。

 いつだって神様は、あたしの味方のはずだ。

 どんな逆境だって乗り越えてみせるのだ。

 鏡に映る自分の顔が、急に凛として見えるのだった。
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