元カレバンドDX
 家に着くころには、下着まで雨で濡れて、どこを絞っても水が滴った。

 こころを絞れば、涙が滴る。

 気力をなくしたあたしは、玄関ですべての衣服を脱ぎ、裸になってベットに横たわった。

 充晴とのことを、あの女にどうこう言われる筋合いはないし、バンドだって真剣にやっている。

 なのに、なんであんな言われ方をしなくてはいけないのだろうか。

 もう腹が立って腹が立って仕方がない。

 あたしは布団にもぐり、泣きじゃくった。

 泣いて泣いて、泣きつかれて眠り、夢の中でも泣いた。

 気づくと朝になっていて、投げ出されたスマホの通知音で目が覚めた。

 スマホを拾ってタップする。

 通知音は、防災のアプリかなんかのやつで、台風が来ることを伝えていた。

 期待していた、充晴からのLINEや着信はなにもなく、あたしは最後の砦も失った気がした。

「もう嫌だ~」

 枯れることを知らない涙がまた溢れた。

 ドアの向こうからは激しい風の音が聞こえて、あたしのこころをさらに不安定にさせる。

 こうなったら、台風の目になって、なにもかも掻き回したいと思った。

 そして、そのまま勢力をなくして消えてしまいたい。

 あたしはボロボロになったこころを抱えて、力なく目を閉じるのだった。
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