元カレバンドDX
 このメールを読むのは、優に10回は超えている。

(やっぱり、本物だぁ……)

 あたしの手には、ほんのりと汗が握られていた。

 北斗は、まだそこまで有名ではないけれど、一部ではとても人気のある演劇集団の主宰者で、脚本や演出を手掛けたり、音楽制作まで担当している。

 趣味でピアノ演奏もしており、ジャズバーでライブ活動もしているらしい。

 また、役者でもあり、CDリリースもしている彼は、いわばマルチプレイヤー的存在だ。

 あたしは、彼の作るお芝居や音楽が大好きで、よく観たり聴いたりしていた。

 友達に誘われて、彼の演劇集団の公演を観に行ったのをきっかけに、彼のあらゆる作品を追うようになり、今では大ファンになっている。

 そんな憧れの人から直接メールをもらったのだから、あたしが驚くのも無理はない。

 メールには、「デモ音源を聞かせてもらいました。素敵な声ですね。今度ぼくがライブをするイベントに遊びに来ませんか?」と書いてあった。

 オーディションの合否はわからないが、なんとあたしは誘われているのだ。

 これは一大事だと思ったあたしは、とりあえず風太にLINEをした。
< 144 / 237 >

この作品をシェア

pagetop