みんなみたいに上手に生きられない君へ
家に着くまでの間、色々話しかけてくれた前田くんとは違って、渡辺くんは自分から話しかけてくることはなかった。

私も何を話しかけていいのか分からず、街灯もほとんどない暗い夜道の中、無言でふたりで自転車をこぐ。


......気まずいけど、お互いに最初から会話をしようという気がない分、さっきよりも気は楽かもしれない。


一言も会話もないまま、家の前につくと、ちょうど仕事から帰ってきたのか、車から出てきたお母さんと鉢合わせ。

私がただいまとお母さんに声をかけると、渡辺くんもこんばんは、と小さく頭を下げる。



「じゃあ、また。学校で」

「う、うん。送ってくれてありがとう」



それから私に一言だけ声をかけると、渡辺くんはさっさとその場を離れた。


結局一言しか話さなかったな。

いや、さっきのは話したうちに入らないかもしれないけど。

< 41 / 207 >

この作品をシェア

pagetop