みんなみたいに上手に生きられない君へ
「あのときもし、違うと言い通せば、もしかしたらまだ隠しておけたかもしれない。だけど、無理だったんだ。
もうこれ以上隠せなかった。

みんなにどう思われるかはすごく不安だったけど......」



静かな声で話していた渡辺くんは、そこで言葉をとめてうつむいた。


不安だったけど、もう隠すのもつらくなっちゃったんだね......。

勇気を出してカミングアウトしたら、男子たちには非難の目を向けられるし。


渡辺くんの気持ちを考えるだけで胸が苦しくなるけど、何を言ったらいいのか分からない。

前田くんも同じなのか、何も口をはさまずに黙って聞いている。



「斉藤さんが言ってくれたこと、嬉しかった。
あんな風に思ってくれる人もいるんだね」



誰も何も言葉を発せず、シーンとした空気のなか、ようやく渡辺くんが顔をあげたかと思えば、照れたように笑ってくれた。

初めて笑いかけてもらえて、すごく嬉しいし、なんだかほっとする。

渡辺くんが笑ってくれて、よかった。
< 91 / 207 >

この作品をシェア

pagetop