山賊上がりの近衛兵
「今日という日を貴女の御父上、御母上、ひいてはレオネール家の英霊達もきっとお悦びなさっております。私の旦那様、奥様、失った同志達も草葉の陰であなたがこの国の第一家となったことを称えている」

「叔父様、おばさま、皆……」

 ヴィクセンはルーテシアとは長い付き合いだ。2年3年なんて物じゃない。其れこそ10年来の戦友ともいえる間柄。だからそんな彼が今言った者たちを持ち出したのであれば、そこに嘘はない事は理解できた。

「そして、嬉しいのは私も同じです。ほら、そんな顔をなさらないでせっかくの化粧が台無しです」

 優しくそう口ずさむ近衛騎士長はそうしてルーテシアの頭を撫でて笑った。

 これから夫になろうという男がこの光景を見たらなんというだろうか? 想像は付く。仏頂面にお小言を並べて、おおよそ戯れに見えない程の殺気を以てヴィクセンに斬りかかるだろう。そうしてこの騎士長も余裕そうな笑顔を以て本気で将軍と斬り結ぶ。

 それが、彼らのじゃれあい。ルーテシアがいつまでたっても慣れないお約束。

「うん」

「そうそうその笑顔です」
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