山賊上がりの近衛兵
「それではルーテシア様、私はこれより将軍閣下の所へと参ります。彼の事です。どうせ、ナーバスになっている」

 体勢を整え、頭を垂れたヴィクセン、だがルーテシアはそんな彼が口にした言葉に苦笑いを禁じ得ない

「たまに思うのだけれど、上司……なのよね? 閣下ってヴィクセンの」

「残念ながらそうなりますよ。とにかく人手が足らないなんて徴用されていますが、本当よく彼よりも優秀な人間が反目しないのか……。それを束ねてしまう所が真の恐ろしい所か。それが、貴女の夫となる男です。ではまた式の会場にて」

 ため息交じりにそう笑ったヴィクセンはやがて疲れたように部屋のドアに手をかける。思っていたのだった。これで、ルーテシアとの、誰の物でもない彼女との最後の会話が、終ってしまったことに。

「……お世話になりました。兄さん……」

「それは、こちらのセリフだ。楽しかった。ルーテシア」

 だがそうではなかった。最後の最後にルーテシアがヴィクセンに掛けたセリフ。その言霊は彼の胸を温めた。
 満ち足りた笑顔、やがて敬称もつけないままに彼女の名を呼んだ彼はそのまま静かに扉を開け、部屋から姿を消していった。
< 6 / 86 >

この作品をシェア

pagetop