山賊上がりの近衛兵

山賊 正体を知らされぬ訳

「俺たちは、山賊だルーテシア」

 カルバドスに見つめられ固まってしまったルーテシアの耳に入ったのは次いで頭領の言葉。交戦中という事もありその熱にかき消されないように彼の言葉は雷のごとく鼓膜を震わせた。

「山……賊?」

「あぁそうだ。襲い、殺し、奪う。それが山賊だ。お前の頭を撫でていた奴も、お前に朝笑って挨拶をしていた奴も全員俺を頭領として据え山賊を稼業としてきた人殺し。ベルトライン殿も承知の上でお前だけが知らない事実だ」

「ジイジ……」

 だが震える目で見上げるも黙って見下ろすベルトラインの視線も相まってガツンと頭を殴られたような衝撃が走るルーテシア、だがそれでも頭領の言は留まらない。

「実際に悪くない仕事だった。稼ぎの一部を近くの町の役人に渡して、なるだけこの山道を安全だと触れ回ってもらっちゃあ鵜呑みにした隊商を襲う日々。小規模な商売行脚や旅人にはその役人から道案内兼用心棒の仕事を斡旋して貰ってな。仕事が成功すれば宴なんかひらいてよ。そうしてこの十数年俺たちは食いつないできたんだ」

「そ……んな……」

 信じられないことだった。で、あればあの憂鬱な3日間というのは即ち里の者達が隊商を襲撃したという事、あの宴で配給されたものは……襲われた者達が死を以て奪われた商材。

 何も知らずにそれを笑顔で受け取った自分が急に意地汚い者に思えてきた彼女は自らの体を抱きしめた。

「お話はここからです。ルーテシア様。幾人、幾十、幾百と人を斬り奪ったこの集落がこれまでなぜ大規模な山賊狩りが起きぬように役人を取り込んできたかお分かりか? 見ようによっては姑息でケチな三下。そして私が知っていてなぜ貴女がこれまで知らなかったのか、その訳をお話ししましょう」

 そうして降った神妙な声色。間違いなく良くないものを耳にすることになる。ルーテシアは息をのむ。このまま耳を塞いで知らないわけには行かない事に体を震わせた。
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