山賊上がりの近衛兵

時は来たる

「わ、私は……」

 何か、せめて何か口に出しておきたいと思ったルーテシアの行動はその緊張に、そのショックに何とか立ち向かおうとも思った行動。

 だが、明らかに変わってしまった幼馴染はそれを許さなかった。

「お前たち、手筈の通りだ」

“分かっているさ若。元服前のガキは可能な限り連れていく。ついてこれないもの、ついてこないものはおいていく”

“赤子については……親の了承を全員取った”

「分った。親父、ジジイ、時間だ。」

「兄さん……一体何を話しているんだよ! 分かるように説明してよ」

 このような場にあってカルバドスは冷静。それがまた違和感を際立たせた。
 
 どのような時にも冷静沈着なライナで以てしても初めて耳にした多くの話が飲みこめず落ち着けないのか珍しく喚き立てていたのだから。

「ゴメンなライナ。別れも言わせてやれなくて……」

「だからなんのこっ……!!」

 だからただでさえ追い詰められた状態にあってカルバドスは更に辛い指示を仲間にする。 

「ライナッ! カルバドス!」

 仲間の一人がライナの鳩尾に突然拳を埋める。それは気を失わせる為。
 自分の指示で弟の意識を刈りとらせた事に悲しげな目をしたカルバドス、彼は今の悲鳴を聞いて視線を移した。ルーテシアの方へ。

「……いやだ、いやだ! 止めてカルバドス! 行きたくない! だって私にとってこの集落は!」

 凄味を見せてジワリ寄るかつて友だった者達、そしてうれいた瞳で見つめるカルバドスに恐怖し後ずされば、その背はベルドラインに触れた。

「ジイジ! お願い! 頭領! 止めさせッ……」

 必死にせがむルーテシア。

 しかしそこまでだった。

「成長されましね。もっとよく見せてくだされワシの生きた証を。……美しくなられたなぁ」 

「ジイ……ジ」

 それはルーテシアの首筋に打たれたベルトラインの手刀による物。

 満ち足りたベルドラインの笑顔を最後に、彼女の世界は暗転した。
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