最期の時間を君と共に
「俺の前では泣くなよ。帰れなくなるから」

「……なんだよ、気づいてんのか」

当たり前だ。テンチョは、悲しいときも寂しいときも無駄に明るく振る舞う奴だから。

「じゃあな、テンチョ。世話になりました」

最後は滅多に使わない敬語で締めた。去り際、テンチョが呟いた。その一言を拾って、小さく笑ってから出た。
『また、どこかで』


「「誓!」」

家に帰るなり、母さんと父さんに抱きつかれる。今は夕方の4時頃。こんな早く帰ってくることなんて、これまでに1度もなかった。

「……ただいま」

「おかえりなさい、おかえりなさい」

「おかえり」

母さんと父さんの目が少し赤くなっていることに気づいた。でも、気づいていないふりをして話す。俺のせいで、泣かしてしまったんだから。
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