最期の時間を君と共に
「誓のこと、忘れないよ。忘れたくない。だって、ずっと一緒にいたんだよ?ちょっと上から目線だけど、私のこと、いつも気にかけてくれてた。私の好きになった人で、私を好きになってくれた人。忘れられるわけないよ。……でも、ちゃんと恋するから。誓よりももっと……いい人見つけてみせるよ」

精一杯の笑顔で誓に笑いかけた。誓はその言葉を待っていたかのように、優しく微笑んだ。
私は涙が流れゆくのを見られたくなくて、天井をみる。

「もう終わりだな……」

その言葉に素早く反応して誓をみた。私の目にうつった誓は、さっきとは大違い。誓を通して、私の部屋の壁が見えてしまう。

「誓――っ」

すり抜けると分かっていても、誓の手をつかもうとする。でも、すり抜けては落ち、すり抜けては落ち、を繰り返す。誓の温かさがほしい。最後に、少しだけでいいから。誓の体温を――。

“ゆずき”

小さな小さな声が聞こえたと思えば、誓の指先が私の指に触れた。指先だけ、人間の色をして、体温をもっている。私はその指先から伝わる温かさを心で感じ取る。

「誓ぁっ、誓……っ」
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