最期の時間を君と共に
「お邪魔します」

モカのそばのドアが開く。声と共に、姿を現した。

「――っ」

「初めましてだね、誓くん」

そう言って、くしゃりと顔を崩して笑ったのは、確かに見たことのある人で。
風が吹いているわけでもないのに、柔らかそうな茶色の髪の毛はふわふわと小さく揺れている。

知っている、俺は、この人を。何度も写真という形で見てきた人。

ゆずきの、お父さん――リイチさんだ。

「私はこれで失礼します」

「ありがとう、モカさん」

モカは一瞬にして姿を消した。
なんで、俺の名前を――?
なんで、俺を知っているんだ――?

「そんなに驚かれるとは。びっくりしたかい?」

どこか幼さの混じった笑顔を向けてくる。俺より上であるのだけど、幼さが混じっていて、こんなことを言うのは失礼なのだと思うのだけど、“可愛い”人だと思った。
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