1ページの物語。
-同窓会-

ビールを一片手にかつて学び舎を一緒に過ごした友との再会に懐かしい気持ちで楽しんでいる時だった。


「なぁ、なぁ」


「ん?」


目の前に腰を下ろしたかつてのクラスメイトに視線を合わす。

奴は真剣な顔をして私を見た。

そんな真剣な表情、部活の最後の大会のPK戦以来に見る表情だ。



「お前って出身国ネバーランドなの?」


「ばりばり日本だこら」


何を言い出すかと思ったら馬鹿なこと言って…本当この男には呆れる。

ビールを持っていた手の力が抜けたのが証拠だ。


「いやぁ…だって俺たち中学卒業してもう10年だぞ?25だぞ?

なのになんでお前顔変わってねぇんだよ、可笑しいだろ」



「童顔バカにしてんの?」


「童顔すぎるお前をバカにしてんだよ。
ほら、見ろよ」


目の前の失礼な野郎はかつてクラスのマドンナだった子を指差す。


「お前普通はあーやって劣化するか、委員長みたいに劇的に美人になったりするもんだぞ」


野郎たちからしたらあの頃の可愛さを無くしケバくなってしまったかつてのマドンナより

物静かでクラスをまとめていた地味だった委員長が落ち着いた綺麗な大人になっていることの方がタイプらしい。

現に元マドンナより元委員長の方が視線を集めている。


「お前もあんな風に変化しろよ…因みに委員長みたいにな」


「それマドンナに失礼すぎない?

でも、私なりに変化してるつもりなんだけど…」



化粧ももちろん、髪の毛だっで明るくし、服装だって大人っぽいのをチョイスしているつもりだ。

けれど目の前にいる奴はもちろん、他の人からも変化が無いと言われ、

最近では中学生より若返ってきていると訳分からないことを言われる始末だ。



「私そんなに変わってない?」


「怖いくらい変わってない」


「まじか」


「…それよりさ」


「それよりとは何だ、人が真剣に悩んでるのに。

で、何?」


「いや…お前が変わらなすぎてあの頃思い出すんだよね」


「……ふーん」



10年前のあの頃、私たちは友達以上の関係だった。


「楽しかったよな、あの頃。

お前とはすげぇ楽しい思い出しかないわ」


「あんたが他の人を好きにならなかったらもっと楽しい思い出があったよ」


「ハハッ、言えてるな」


野郎…何笑って酒呑んでんだこら。


「そう、睨むなよ」


「睨みたくなるわ」


「あの時お前怒らなかったけど、今のお前に睨まれたらあの時のお前に怒られてる気分だよ」


さすが童顔とこいつはまた笑うけど、あの頃の私がそれを聞いたら笑えない話で、

もちろん今の私も冗談としても笑う事は出来なかった。

そんな私を見て笑う事をやめ、眉毛が下がり、何とも気まずそうな表情をする目の前の男を見てやっと私は笑った。


「あの頃の私からしたら怒れないよ」


怒りよりショックと哀しみの方が強かったあの頃の私は怒るなんて事をする気にもなれなかった。



「だって、大好きで大好きで仕方なかったんだもん」


私の青春すべてを捧げた彼。

そんな彼も今じゃあスーツを着て、お酒を片手にタバコを吸って…


「あんたは変わったね」



左手の薬指に輝く指輪を見て呟いた。



『一生一緒にいたい奴なんてできる訳ないし、結婚なんてしたいと思えない』と言っていたあの頃とは違う男性になっていた。

あの時、内心傷ついたんだよね。


そんな彼が一生を捧げる人に出会えたんだ……。



「そういうお前も変わったよ」


「そう?さっきはあんなに変わらないって言ってたのに」


ジョッキを掴んでビールを喉に流し込む。

そんな姿を見て目の前の男から未成年が呑んでるみてぇという小言のプレゼントにうるさいと文句を1つ返す。



「半分は本当。でも、綺麗になったよ」


「ふふ、何いきなり褒めて…ありがとう」


「『永遠を信じない私からしたら結婚に憧れなんてない』

なんて言って俺を落ち込ませた奴がしっかり左手の薬指にキラキラ輝く物を嵌めてんだもん、幸せそうに笑ってさ」


「ふふ…バレた?」


「それ見よがしに左手でジョッキ持ちやがって…危ないから利き手で待て」


「ハハッ、そうだね」


ジョッキを持つ手を右手に変え、またビールを喉に流し込む。


「いつ結婚したの?」


「先月。そっちは?」


「2年前の夏くらいかな」


「そっか…」



同窓会とは不思議なもので振られたあの日から話す事を拒否していた彼とこんなに打ち明ける様に話す日が来るなんて…思いもしなかった。


「ねぇ、」


「ん?」


「あの頃…私の事どう思ってた?」


『好き』とは言ってくれない彼氏だった。



「…自分が1番良く分かってんだろ」


「…そうだね」


「言葉より行動で示す男なんで」


「それ言えてる」


『好き』とは言ってくれない彼氏だった。

でも、不安になることは1度もなかった。

だって彼はいつも、優しく、私のことを1番に考えてくれ、一緒にいてくれたから。



「ねぇ、乾杯しようよ」



笑って彼に向ってジョッキを持ち上げる。


「最初しただろ」


「みんなででしょ。2人でしようよ」


「…いいよ」



2人の空間にジョッキを当てる小さな音が響いた。

同時に静かにビールを喉に流し込んだ後、小さな声で彼があの時はごめんなと呟いた。


そんな彼をやっぱり私は人として好きだなと思えた。



「ねぇ、あの頃の楽しかった話しようよ」



目の前にいるこの男との最後の思い出は悲しい思い出。

だから、2人で思い出して笑いたい。


あの頃の幸せだった日々の思い出を。



「同窓会らしいなそれ」


「ねっ、私たちも歳を取ったね」


「…だな」



そう言って笑い合うと先程とは違って大きな音を響かせて乾杯した。



【同窓会】


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