1ページの物語。
-好き“だった”人-
『ねぇ、もしも私と別れたらさ』
あの時、君は分かってた?
『この曲を聴いてくれる?』
一枚のCDを取り出して笑う君は少し悪戯をする時に見せるニヤケ顔。
いつもはその表情が可愛いと思うのに言ってる言葉でこんなに可愛いと思わないなんて不思議だ。
『そんな別れるとか言うなよ』
『そうだけど…“もしも”の話だからさ』
『じゃあその曲は一生聴くことはないから』
あの時は1ミリも予想してなかった“もしも”の話とそれを否定する話し。
あの時にはもう俺たちは……
【ソファーを座る時は決まって右側
もう君はいないのに可笑しいね、君がいた左側をどうしても避けてしまうんだ
君がいないだけで僕の部屋は僕の部屋ではなくなってしまった
あぁ…君がまた左側に座って笑ってくれることを願ってしまうよ】
この曲を聴いて俺が……
「何その歌。わざわざCD?」
「んー?一応約束?だったから流してみた」
「なにそれ。誰との約束?」
「あー…好き“だった”人」
何とも心に響かない事を君はあの時には分かってたかな?
「それよりこっちに座って旅行の計画立てようよ」
「あぁ」
今の彼女がソファーの左側に座って笑顔で手招きをする。
俺はそれに笑顔で応えて右側に座って思う。
君が俺にあのCDを渡したのは何人目だったのかな?
「過去に慕って自分を想ってて欲しいとか痛いんだよ」
「ん?何が?」
「別に、ただの愚痴だよ」
あのCD頼まれた通り聴いてやったし捨てよう。
燃えない日はいつだっけ。
心の中で考えながら彼女の旅行先の情報が写る画面のスマホを見つめた。
【好き“だった”人】