黒猫の香音(前編)

私の時は『御前』で年の変わらない可愛い子は『瞳ちゅあぁん』かよ…



「ﾏｼﾞｷﾓい、死ね。」


そう言い残し後味の悪いまま、陰気臭いﾊﾞｯｸﾔｰﾄﾞを後にした。





＿数日後。




昔からの血の気の多さと糞主任の偏見にまた息が詰まりそうになり、馨はいつもの如く外に出て逃げる様にｻﾎﾞりだした。


煙草に火を付けるまでの時間は思っているより早く、あっという間にそれを吸い込んでは思い切り吐いた。



見上げると狭い建物同士の隙間から程良く綺麗に澄んだ蒼い空を眺める事が出来る。




この僅かな時間が馨にとって何よりの癒しだった。



日によって、季節によって様々な模様を造り出すそんな空がとても広大で自分の世界の狭さを改めて実感する事が出来る。




手を伸ばせば届きそうで…一層このまま飛んで行けたらなぁ、などというｾﾝﾁﾒﾝﾀﾙな想像が跡を絶たない。







「…何してんだ？御前。」