黒猫の香音(前編)
「ところで…」

と馨は聞き返す。

「まだ彼女は作らないんですか?」



…これじゃまるで『私で良ければ』て言ってる様なモンじゃん馬鹿ー!!!


とテーブルに突っ伏していると水谷は少し考えて答えた。



「…と言うより相手が居ないんだよ。」

「へぇ…意外…ですね…」


仕事が出来て気さくな彼に好意を寄せている者も少なくは無いだろう。


恐らくそれが壁となっていて中々自分の気持ちを打ち明けられないのだ、馨の胸は『好き』と『不安』で押し潰されそうになる。


「竹内ちゃんは居ないのか?」


その問いには勿論即答。


「居ませんよ。」

「それも意外だな。」


その答えには納得がいかずに反論。

「いや、妥当です。」

「そんな事無いだろ。」


そう言って水谷は笑う。


「背丈も丁度良いし、目だって大きいし、それに何より話していて落ち着く。」


「え?

そ、そんなに褒められても何も出ないですよ、そういうジョーク言うの本当好きですよね水谷さんって‼」
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