花京院社長と私のナイショな関係
黒い靄浄化の仕事もだいぶ慣れてきた。
最初は得体のしれない黒い靄がおどろおどろしくて怖かったけど、おっさんからいろいろ教えてもらって、観察するうちに慣れてきたというか。
黒い靄に触れても、楽しいこと考えたり前向きなことを考えていると不用意に吸い込まないとか、コツも掴んできた。
負の感情にも色の違いや濃さの違いがあって、よくよく見ていると面白い。
例えば赤っぽい色は恋愛が原因。一人の男性を取り合ってる女子なんかはこの色。不倫が入ると紫も交じってくる。
仕事の利益絡みだと黄色交じり。出世や権力系は青。
見たくもない腹の中の人間関係や感情が透けてくるから、人間不信になりそうではあるんだけど。
この会社は心身バランスが取れている人が多いみたいで、負の気をを背負ってる人はそんなにいない。
だけど社長がね、外部からお持ち帰りしちゃうんだよね。
「うわ。社長…なんかすごい色の持ってきましたね」
今日は珍しく朝から社長室に呼び出された。
出社したばかりの社長の周りには、蛍光ピンクが混ざった黒い靄がぐるぐると取巻いていて、社長もおっさんもげっそりしている。
「キャラの濃い女性に絡まれたんですか?」
「…よく分かるな」
こっそり呼ばれた社長室。社長とおっさんはソファに沈んでいた。あれま。
「朝から疲れてますねー。 昨日、何かあったんですか?」
「ああ…身内の祝賀会に、はとこが来てて。2人とも…あんなやつらと結婚とか勘弁してほしい…」
ごっそりエナジーを持っていかれたような社長は、知ってたら絶対に行かなかった…とぶつぶつ呟いている。
こんなになるなんて、よっぽど強烈なはとこ達らしい。
社長に靄がくっつかないよう守っているおっさんも疲れ切っているから早く浄化してあげないと。
社長が座るソファの床に膝をつき息を整える。ちょっとやっかいそうだな。
「はとこさんと結婚されるんですか?」
「するか!何があっても逃げる…!本気で逃げる…!」
「逃げるって…よっぽどですね」
「変態でストーカーだ。顔を見るのも吐き気がする」
昨夜は社長の叔父さんが経営する会社の祝賀会だったらしい。もちろん避けたいメンツが出席名簿に載っていないことを確認してから出かけたそうだんだけど。
はとこさん達が変態ストーカーなのはずっと前からで「トラウマものだから話したくない」そうな。
「大叔父に免じて大目に見てきたが、そろそろ訴えるか…」
「そ、そんなレベルですか」
「なのにあいつらのどちらかと結婚しろとか冗談もいい加減にしろって話だ」
はあーと社長は深いため息。相当、押し付けられそうになったんだろうな。
「花京院本家の長男のくせに、さっさと結婚せえへんからや。つけこまれるお前も悪い」
疲れているからなのか、おっさんも機嫌悪そう。辛辣な言葉を投げてソファで大の字になっている。