花京院社長と私のナイショな関係
「彼女は特殊な才能を持っていましてね。信じられないでしょうがこれが事実です。渡さん、会社の経営が悪化し始めた時期と山間部の土地を汚した時期、体調が悪くなった時期は同じではありませんか?」
社長の指摘にハッとした表情になったけど、渡社長は頭を振って「知らない。私は何も知らん!」と否定している。
まあすぐに信じろってほうが無理だろうけど。
「地縛霊さん、この人に言うことあるんじゃないの?」
手だけは温かいけど本気で体が寒い。力も抜ける。ううう。風邪ひきそう。手離したい。
反対に冷気の根源である地縛霊は、気のせいか黒い体に艶が出てきた気がする。
「われ、の土地を返せ…汚した土…水…森を…お前が汚した…」
「…!…、私は知らん。何の話だ。おい、腹話術はやめろ」
「本物ですよ。信じたくないでしょうけど」
あろうことか腹話術。何の目的で私がそんなことするんかい。
現実を認めたくないのは分かるけど、そろそろ受け止めてもらわないと。
「渡社長。あなた、呪われてます」
「や、やめろ。おかしなことを言うな」
「おかしなことじゃないんですよ。体の不調も会社の問題も原因が分からなかったでしょう?実はこれだったんですよ。」
「わ、私は知らん。信じんぞ。こんな、こんな茶番」
青い顔をしてガタガタ震えだした渡社長は、椅子に張り付いたようになっている。
どうやら頭の固い方らしい。
仕方がないので地縛霊に「どうします?あなたの想い、伝わってないみたいですよ」と言ってみた。
あんなに一生懸命(と言っていいのか?)呪ってアピールしてきたのに、伝わっていなかったことにショックを受けたのか、地縛霊はプルプル震えだした。
そして獣のような唸り声と地鳴りがしたかと思うと、私の片手を残したまま渡社長に襲い掛かった。
黒い半透明の物体が渡社長をすっぽりと被さって「ぐあっ…!」という苦しそうな声が聞こえてきた。
渡社長は中で暴れまくってもがいている。さっき社長とおっさんを襲った時みたいに躊躇がない攻撃は、けしかけたのを後悔するくらいに凄まじく恐ろしい。
ど、どうしよ。
「や、やめろ!助けてくれ!頼む!」
渡社長のヘルプを求める声に思わず出そうとした手を社長に止められた。
「渡さん、さっき私もそれに襲われたんですよ。苦しいでしょう?このままだとどうなるか分かりますか?」
社長は怖いくらいに冷たい声で言った。
「た、助けて…ぐっ」
「助けてほしければ正直に話してください。とよみの沢とふたごの山。これに思い当たる土地はありますか?」
「…っ、…!」
地縛霊、手加減はまったくしていないらしい。本気でやばそうなので可及的速やかに地縛霊の本体を引きはがしにかかった。
でも冷え切った体は力が入らず焦った。踏ん張りが全く効かない。
おっさんも社長も手を貸そうと地縛霊を掴もうとしたけど、霞を掴むようにするっと抜けてしまう。
「まどか、手の先だけ力を込めてくれ。俺が君を引っ張る」
「は、はい」
私、社長、おっさんと連なって『おおきなかぶ』状態。1、2、3で一気に地縛霊を引っ張った。
黒いグミ状の体がべりべりっと剥がれ、中から、ぽんと渡社長が転がり出た。…よかった。生きてる。
命辛々助け出された渡社長は、汗も涙も鼻水も出まくってスーツも髪もよれよれのボロボロな姿だった。
「渡社長、すべて、話してくださいますね」
花京院社長は、容赦のない人だった。