花京院社長と私のナイショな関係
先週末に熱が出た。
39度後半の高熱が金曜の夜から日曜の朝まで続いて、ヤバいと思った。
大学の時に地方から出てきて1人暮らし。頼れるような彼氏はおらず、仲の良い友人たちはこんな時に限って出張とか彼氏と旅行でで不在。このまま人知れず息絶えたらどうしようと本気で心配した。
日曜日の午後にようやく熱が下がって、冷蔵庫に何にもなかったから仕方なくコンビニに買い出しに行ったら。
10月の秋晴れ。爽やかな風に漂う金木犀の香りの中に。
電柱の横とか人の後ろになんか黒っぽいものがいた。
あちこち。薄いのから濃いのまで。靄みたいなのが、いる。
なんかいるなんかいるなんかいる――――――――――!!!
夏目 まどか、26歳。半年前に勤めていた会社が潰れ、現在派遣社員生活というピンチな生活がさらなるピンチ。
見えてはいけないものが、視えている。
小さい頃から霊感は強いほうだった。
視えたり聞こえたりってことはないけど、なんとなーく気配を感じるって程度。だった。
これはああいう類のものだってことは直感で分かった。
普通は見えないものが視えている。
背中がぞわぞわする。
うあああああこれってやばいやつだよね!?幽霊とかああいう類だよね!?
ダッシュでアパートに帰って、実家に電話した。
こういう件はおばあに聞くに限る。
30回くらいコールしたところで、おばあがやっと出た。
「おばあ!私!なんか黒い変なのが視える~~~」
「あーそうねー よかったさぁ」
「よくない!全然よくない!ナニコレ怖いっ!やだっ」
「まどかはサーダカーさぁねー」
サーダカ―。
いわゆる霊能者。地元では霊感のある人がそう呼ばれている。
「うちの一族はサーダカ―やユタが結構おるさぁね。ほら、ユージんとこのまーりーとか」
名前を出されて思い浮かべたのは、いつも赤い花柄のワンピースを着た派手な親戚。何かの集まりで久しぶりに会うなり「あんたぁ 男運なかねー」と高笑いされた記憶がある。
ちなみにユタも霊能者とか霊媒師とかそういう人だ。サーダカ―がさらに覚醒するとユタになる感じ。
「やだよっ!だって視たくないよあんな不気味なもの」
「なんくるないさー」
おばあはあっさり電話を切った。ひどい。
怖かったけど食物も飲み物もなかったから、我慢して再度出かけた。サングラスをして出かけたけどやっぱり黒いものは視えた。
黒い物体と目が(あるのかわかんないけど)合わないように下向いて注意してガクブル怯えながらコンビニに行った。
レジには薄い黒い靄を纏った顔色の悪いお兄さん。 暗くて元気がない。
「お弁当……温めますか?」
ぎゃー!手からなんか黒いの噴き出してるし!
「け、結構ですっ」
お金を出した手を速攻で引っ込めようとしたら、お弁当を袋に入れようとした店員さんの手に触れた。
その途端、しゅるしゅると私の手に吸い込まれる黒い煙。
それらは指から腕を通って肩に行き、頭、胸、お腹と駆け巡って足に流れていくのが分かった。
気の流れに沿い、くるりと体を周って足の先から地面に何かが流れ、足の裏から地面に何かが抜けていく。
入れ替わるようにずん、と気怠さが膝から下に襲ってきた。それはほんの一瞬だったけど、私の体で何かが起こっていた。
その反動なのか、病み上がりの怠さが3割増し。
「ありがとうございましたー!」
急にテンションの高くなった店員さんを見上げると、めっちゃ晴れ晴れした顔になっていた。