花京院社長と私のナイショな関係
雪乃さんは、もしかして何かに気づいたのかもしれない。
私と社長の関係を人に知られるのは色んな意味でよくない。
社長と私は恋人ではないし、雇用主とセックス込の従業員でしかない。特殊任務を担当しているとはいえ、そんな事情こそ人には言えないし。
正社員に雇用された経緯を考えても、私は社長に対して慎重にしないといけなかったんだ。社長のコネで社員になったんだから。
私は可能なかぎり、社長を避けることにした。
私にとっても社長にとっても親密すぎる関係はお互いに良くない。
傍にいれば、優しくされれば、私の気持ちも引き返せなくなってしまう。
今度こそ流されないように、丸め込まれないようにしなきゃ。
「どうした?最近変だぞ」
再度の決意を持って避けることにした3日目。
終業前の小さい浄化の後、キスされそうになったのを避けた。
あからさまな態度に、照れているわけじゃないと気づいたらしい。
「なんでもありません。失礼します」
「待って。俺も今日は早く終わるから一緒に帰ろう」
「いえ、先に失礼します」
「まどか」
さっさと退室しようとしたら、腕を掴まれた。
「…放してください」
「どうした。今日は都合が悪い?」
「社長には関係ないです。もう、部屋には行きません。会社でこういうことも止めてください」
「いったいどうしたんだ、急に」
急に?
カチンときた。
そうだよ、急にこんな関係になった。
急に、変なものが視えるようになって、急に社長の負の気を浄化することになった。
いきなり始まった、私たちの関係は人には言えない秘密の関係。
そこにはどんな感情があるの?
それとも何もない?
「社長はどうして不必要な『補給』をするんですか?私は都合がいい女ですか?」
ダメだ。
言っちゃダメだ。
頭の隅でストップがかかるのに止められない。
そんなことを言ったら、聞いたら、傷つくだけ。
「社長は、私のことどう思ってるんですか?」
つい先週まで、へらへら笑って部屋についていってたくせに。
急に態度を変えた女が今度はヒステリーを起こすもんだから、社長は呆気にとられていた。
存在を忘れがちなおっさんもびっくりした顔をしている。
「あー。篤人。お前、まどかに勘違いさせてんで」
こほん、と咳払いをして、おっさんが「女は言葉で言わんとわからん生き物なんや。ちゃんと気持ちを言っとけ」とアドバイスをした。
気持ち。その言葉にどきっとする。
この言い方ってもしかして、と期待してしまう。
社長ははっとしたような顔になって、何かを言おうとしたけど口を噤んだ。
視線を落として、考えを纏めるように言葉を選んでいる顔。
「俺の態度が傷つけてたんだな。…ごめん」
ため息をついて、選んだ言葉を慎重に口にしている様子がすべてを物語っていた。
「期待させたのなら悪かった。…俺は、恋愛したくない」
いや、恋愛できないんだ、と社長は自嘲的に笑った。
好きになった女はいるけど、みんな変わっていった。子どもの頃から今まで、まともな恋愛ができた試しがない。
みんな、俺の気に引きずられて醜く変わっていく。
これ以上、誰かをおかしくしてしまうようなことはしたくない。
「他人も自分も、もう傷つきたくないんだ」
社長は丁寧に、正直に気持ちを話してくれた。
「まどかのことは特別だと思ってる。でも恋愛はできないから、恋人にはできない」
私と社長の関係を人に知られるのは色んな意味でよくない。
社長と私は恋人ではないし、雇用主とセックス込の従業員でしかない。特殊任務を担当しているとはいえ、そんな事情こそ人には言えないし。
正社員に雇用された経緯を考えても、私は社長に対して慎重にしないといけなかったんだ。社長のコネで社員になったんだから。
私は可能なかぎり、社長を避けることにした。
私にとっても社長にとっても親密すぎる関係はお互いに良くない。
傍にいれば、優しくされれば、私の気持ちも引き返せなくなってしまう。
今度こそ流されないように、丸め込まれないようにしなきゃ。
「どうした?最近変だぞ」
再度の決意を持って避けることにした3日目。
終業前の小さい浄化の後、キスされそうになったのを避けた。
あからさまな態度に、照れているわけじゃないと気づいたらしい。
「なんでもありません。失礼します」
「待って。俺も今日は早く終わるから一緒に帰ろう」
「いえ、先に失礼します」
「まどか」
さっさと退室しようとしたら、腕を掴まれた。
「…放してください」
「どうした。今日は都合が悪い?」
「社長には関係ないです。もう、部屋には行きません。会社でこういうことも止めてください」
「いったいどうしたんだ、急に」
急に?
カチンときた。
そうだよ、急にこんな関係になった。
急に、変なものが視えるようになって、急に社長の負の気を浄化することになった。
いきなり始まった、私たちの関係は人には言えない秘密の関係。
そこにはどんな感情があるの?
それとも何もない?
「社長はどうして不必要な『補給』をするんですか?私は都合がいい女ですか?」
ダメだ。
言っちゃダメだ。
頭の隅でストップがかかるのに止められない。
そんなことを言ったら、聞いたら、傷つくだけ。
「社長は、私のことどう思ってるんですか?」
つい先週まで、へらへら笑って部屋についていってたくせに。
急に態度を変えた女が今度はヒステリーを起こすもんだから、社長は呆気にとられていた。
存在を忘れがちなおっさんもびっくりした顔をしている。
「あー。篤人。お前、まどかに勘違いさせてんで」
こほん、と咳払いをして、おっさんが「女は言葉で言わんとわからん生き物なんや。ちゃんと気持ちを言っとけ」とアドバイスをした。
気持ち。その言葉にどきっとする。
この言い方ってもしかして、と期待してしまう。
社長ははっとしたような顔になって、何かを言おうとしたけど口を噤んだ。
視線を落として、考えを纏めるように言葉を選んでいる顔。
「俺の態度が傷つけてたんだな。…ごめん」
ため息をついて、選んだ言葉を慎重に口にしている様子がすべてを物語っていた。
「期待させたのなら悪かった。…俺は、恋愛したくない」
いや、恋愛できないんだ、と社長は自嘲的に笑った。
好きになった女はいるけど、みんな変わっていった。子どもの頃から今まで、まともな恋愛ができた試しがない。
みんな、俺の気に引きずられて醜く変わっていく。
これ以上、誰かをおかしくしてしまうようなことはしたくない。
「他人も自分も、もう傷つきたくないんだ」
社長は丁寧に、正直に気持ちを話してくれた。
「まどかのことは特別だと思ってる。でも恋愛はできないから、恋人にはできない」