花京院社長と私のナイショな関係
「まどか!」
篤人さんの声に重なるキンっという鋭い金属音。私を守るように篤人さんが抱きしめてくれる。
はっとして振り向くと、そこには黒いドロドロを体を張って止めているおっさんの姿。
手にはなぜか黄色い文字の入った緑色のビニール袋を持っている。
「え、おっさんなぜにビニール袋?」
「腐った悪霊を入れる指定ごみ袋や!まどか!この女の霊を集めてこの袋に入れるんや!」
「悪霊ってゴミに出せんの!?こういう時の勇者のアイテムって剣じゃないの!?」
「ちゃうわ!悪霊は指定ゴミや!」
「ゴミ!?あ、さっきキンって音したじゃん!私、ゴミ袋より勇者の剣がいい」
「知るか!わがまま言うとらんではよせんかアホ!」
おっさんにぐいっと引っ張られ床に転がった私に、雪乃さんから伸びた黒いドロドロが、うねうねしながら襲ってきた。
「うげ!」
下半身がねっとりと絡めとられて動けない。手で触ると、べちょっとしたいやな感触。
水分が多めのスライムみたい。でも表面が少し乾燥している。とんかつの下ごしらえを素手でした時に、卵や粉やパン粉が指に纏わりついてぼたっとなるあの感じに似ていている。うわー苛つくわこれ。
しかも臭い。どこかで嗅いだことのある、イカがどうにかなったみたいな青臭い臭い。
「おっさん、なんかこれ生臭い!」
「男がらみの女の嫉妬の臭いや!だからこの女、いつも香水で誤魔化しよったろーが!」
雪乃さんっていつもいい匂いがしてて「フレグランスコンバイニングしてるの、ふふ」とかお洒落なこと言ってたけど、生臭いの誤魔化してたのかー!!
男がらみの嫉妬の臭いがイカの臭いって、アレっぽくて余計に嫌だ。
青臭いドロドロを垂れ流している雪乃さんは、あの清らかな白百合のようなお姿がすっかり崩れて、篤人さんを守るおっさんを血走った眼で払いのけようとしている。
昔話に出てきそうなリアル山姥だ。パウダーピンクのスーツが余計にコワい。
「雪乃さんは、おっさんが視えるの?」
「こいつはもう、片足をあっちに突っ込んどるからな」
闘牛よろしくゴミ袋をわっさわっさ振り回しながらおっさんが叫ぶ。
あっちってどっち?という突っ込みは答えが怖いからやめておこう。
黒いドロドロは、私の手に触れるたびにシュッと蒸発するような音がするから、少しは浄化されてるのかも。
でも濃度が濃くて、そんな浄化速度じゃ追いつかないらしい。
時間が経つにつれ水分が無くなって粘着度が増している。
足から急いでこそぎ落とし、胴体にこびり付いたものも大きな塊をべりっと剥がす。下に落としたそれらのものを急いで集めておっさんが寄こしたゴミ袋に突っ込み、襲われそうになっている篤人さんの元に走る。
「雪乃さんやめて!」
ぎゃー!
勢いで雪乃さんの前に手を広げ立ちはだかってみたけれど、真正面で顔を見てしまい後悔した。
篤人さんに襲い掛からんとしている雪乃さんの顔は、さっきより青白く、髪は逆立ちぼっさぼさ、頬に大きくぱっくり裂けた口の端から黒い液体が垂れて、目は黒一色の穴みたいになっていた。貞子さんの従姉妹か何かのよう。
もうヒトじゃなさそう。夢にうなされるレベル。夜中のトイレに行けない。
篤人さんの声に重なるキンっという鋭い金属音。私を守るように篤人さんが抱きしめてくれる。
はっとして振り向くと、そこには黒いドロドロを体を張って止めているおっさんの姿。
手にはなぜか黄色い文字の入った緑色のビニール袋を持っている。
「え、おっさんなぜにビニール袋?」
「腐った悪霊を入れる指定ごみ袋や!まどか!この女の霊を集めてこの袋に入れるんや!」
「悪霊ってゴミに出せんの!?こういう時の勇者のアイテムって剣じゃないの!?」
「ちゃうわ!悪霊は指定ゴミや!」
「ゴミ!?あ、さっきキンって音したじゃん!私、ゴミ袋より勇者の剣がいい」
「知るか!わがまま言うとらんではよせんかアホ!」
おっさんにぐいっと引っ張られ床に転がった私に、雪乃さんから伸びた黒いドロドロが、うねうねしながら襲ってきた。
「うげ!」
下半身がねっとりと絡めとられて動けない。手で触ると、べちょっとしたいやな感触。
水分が多めのスライムみたい。でも表面が少し乾燥している。とんかつの下ごしらえを素手でした時に、卵や粉やパン粉が指に纏わりついてぼたっとなるあの感じに似ていている。うわー苛つくわこれ。
しかも臭い。どこかで嗅いだことのある、イカがどうにかなったみたいな青臭い臭い。
「おっさん、なんかこれ生臭い!」
「男がらみの女の嫉妬の臭いや!だからこの女、いつも香水で誤魔化しよったろーが!」
雪乃さんっていつもいい匂いがしてて「フレグランスコンバイニングしてるの、ふふ」とかお洒落なこと言ってたけど、生臭いの誤魔化してたのかー!!
男がらみの嫉妬の臭いがイカの臭いって、アレっぽくて余計に嫌だ。
青臭いドロドロを垂れ流している雪乃さんは、あの清らかな白百合のようなお姿がすっかり崩れて、篤人さんを守るおっさんを血走った眼で払いのけようとしている。
昔話に出てきそうなリアル山姥だ。パウダーピンクのスーツが余計にコワい。
「雪乃さんは、おっさんが視えるの?」
「こいつはもう、片足をあっちに突っ込んどるからな」
闘牛よろしくゴミ袋をわっさわっさ振り回しながらおっさんが叫ぶ。
あっちってどっち?という突っ込みは答えが怖いからやめておこう。
黒いドロドロは、私の手に触れるたびにシュッと蒸発するような音がするから、少しは浄化されてるのかも。
でも濃度が濃くて、そんな浄化速度じゃ追いつかないらしい。
時間が経つにつれ水分が無くなって粘着度が増している。
足から急いでこそぎ落とし、胴体にこびり付いたものも大きな塊をべりっと剥がす。下に落としたそれらのものを急いで集めておっさんが寄こしたゴミ袋に突っ込み、襲われそうになっている篤人さんの元に走る。
「雪乃さんやめて!」
ぎゃー!
勢いで雪乃さんの前に手を広げ立ちはだかってみたけれど、真正面で顔を見てしまい後悔した。
篤人さんに襲い掛からんとしている雪乃さんの顔は、さっきより青白く、髪は逆立ちぼっさぼさ、頬に大きくぱっくり裂けた口の端から黒い液体が垂れて、目は黒一色の穴みたいになっていた。貞子さんの従姉妹か何かのよう。
もうヒトじゃなさそう。夢にうなされるレベル。夜中のトイレに行けない。