bajo la luz de la luna
cero
 ――幸せなまどろみの中、遠い昔に母が住んでいたという日本の夢を見た。生まれてから数ヶ月居ただけで、写真でしかろくに見たことがない国だ。アタシはこれが夢なんだと理解した。

 だが、妙に懐かしい。アタシにもノスタルジックな感情があったのか……と落ち着いた気分に浸っていた時。いつでも戦闘体勢に入れる“眠りの訓練”をされたアタシを夢の世界から引きずり出す、生意気な調子のスペイン語が耳を掠めた。



『お嬢様、起きて下さい。お嬢様。』



 ――冷静なようでいて、“さっさと起きろ”という苛立ちを含んだトーン。あぁ、鬱陶しい。今日は休日の筈なのに、夕方まで寝かせてくれたって良いじゃない。アタシは毎日毎日忙しいんだから。そう思っていても、耳障りなスペイン語が止むことはいっこうにない。むしろ喧しさを増している。



『本日は、お嬢様とわたくしとその他諸々で出かけると、昨夜申し上げたじゃないですか。メキシコのクレオファミリーと会うんですよ?』



 あぁ、昨日イタリアの婚約者(プロメティード)の長電話に付き合わされたせいですっかり忘れてたわ。ていうか煩い。激しく煩い……アタシは五分程粘ったけれど、案外あっさりと折れてやった。
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